2020年9月下旬、河野行政改革担当大臣は行政手続きでの押印を原則廃止するよう各省庁に要請した。同大臣は、自身のTwitterでも「銀行印が必要なものや法律で押印が定められているものなど、検討対象は若干あるが、大半は廃止が可能」との見方を明らかにしており、行政手続きの「脱ハンコ」を推進しようとしている。
行政に変化が生じれば、当然民間企業も変化を迫られる。以前、当コラム「デジタル化に潜む落とし穴」でも述べたが、デジタル化の推進を行う企業であっても、社内稟議が押印というアナログな社内プロセスはいまだ多い。また、新型コロナウイルスの影響からテレワークが推奨されている現在、書類への押印のため出社を余儀なくされるビジネスパーソンもいる。こういった状況の改善もみえてくるのではないだろうか。
他方で、帝国データバンクが公表した「新型コロナウイルス感染症に対する企業の意識調査(2020年8月)」では、新型コロナウイルスを契機として、デジタル施策を取り組んでいる企業は75.5%となった。そのうち、具体的な取り組み施策は、オンライン会議設備やリモート設備の導入が半数以上の企業で取り組んでいるなか、「電子承認(電子印鑑)の導入」は15.3%であった。徐々にではあるが、押印からの脱却に兆しがみえつつある。
私自身、今後、必要な押印と不必要な押印が明確になり「脱ハンコ」が推進されることに期待している。押印による時間のロスなどがなくなり、手続きが簡略化されれば、業務スピードは向上するであろう。
一方で、一世一代の出来事には、押印は文化として残してほしいとも思う。婚姻届などの人生の節目の出来事に対しては必要となろう。また、実印を押す際の緊張感など一度は経験したほうが良いのかもしれない。
全日本印章業協会によると、日本で今日のような実印や認印が広く普及するようになったのは、明治初期とのこと。明治新政府が法的に実印の重要性を確立させたことにより、約150年にわたる社会的慣習が続いている。現在、さまざまな議論を呼んでいる「脱ハンコ」、賛否はあろうが、新たなハンコ文化の行く末を注視したい。
この記事は帝国データバンク様の記事を転載したものです。
「脱ハンコ」は、新たなハンコ文化の始まりか