磯焼けを「美食」に変える——未利用魚×椿酵母で地域課題を価値に転換する五島の椿のSDGs戦略

五島列島の海で深刻化する磯焼け。その原因の一つとされる未利用魚を、独自の発酵技術で高付加価値の魚醤へと昇華させたのが、五島の椿株式会社だ。同社は、環境問題という「地域の負債」を、トップシェフが認める「美食」という資産へと転換し、サステナブルな地域経済モデルを提示している。

日本を代表するシェフが評価したサステナブル調味料

2026年1月21日、五島の椿が手がける「五島の醤 米麹」が、「食べるJAPAN 美味アワード2026」で準グランプリを受賞した。同アワードは、日本を代表するシェフや食の専門家が、味わいだけでなく、商品ストーリーやSDGsへの取り組み、将来性までを含めて審査する権威ある賞だ。

五島の海が抱える環境課題に真正面から向き合う姿勢と、従来の魚醤のイメージを覆す上品でエレガントな味わいが評価され、食のプロフェッショナルから高い支持を得た。

未利用魚×椿酵母が生む「ダブル発酵」という独自性

「五島の醤」を唯一無二の存在にしているのは、原材料と製法の掛け合わせにある。原料には、これまで市場価値が低く、駆除対象とされてきたアイゴやイスズミといった未利用魚を使用。さらに、五島列島の象徴でもある椿から抽出した「五島つばき酵母」を採用した。

これに米麹を組み合わせた独自のダブル発酵製法により、魚醤特有の強いクセを抑え、フルーティーで華やかな香りを実現。醤油ソムリエ・大浜大地氏の監修のもと、琥珀色に澄んだ液体は「刺身に合う魚醤」という新たな市場ポジションを切り開いた。

磯焼けという環境危機を成長エンジンへ

事業の出発点にあるのは、五島の海で進行する磯焼けへの強い危機感だ。海水温の上昇により藻場が消失し、藻類を食い荒らす未利用魚が増加するという悪循環が続いてきた。

代表取締役の谷川富隆氏は、「磯焼けという地域課題に向き合いながら、島が持続的に発展する仕組みをつくりたかった」と語る。単なる駆除や処理ではなく、五島の資産である椿の力を掛け合わせ、高付加価値商品へとアップサイクルする発想。その“負を正に転換する”視点こそが、同社の経営哲学の核心だ。

サステナブル経営に必要なのは「物語」と「圧倒的品質」

五島の椿の取り組みは、地方創生やSDGs経営に挑む企業に重要な示唆を与える。第一に、地域課題を「制約」ではなく「資源」として再定義した点だ。厄介者とされてきた未利用魚を、技術と発想で競争優位へと変えた。第二に、社会性と商品力を高次元で両立させた点にある。

環境に優しいという物語だけではなく、トップシェフが認める確かな美味しさを追求したからこそ、サステナブルでありながら市場性を持つ商品が生まれた。

環境保全と経済合理性を両立させる五島の椿の挑戦は、これからのサステナブルビジネスのあり方を示す好例といえるだろう。

引用元記事:https://coki.jp/sustainable/sdgs/67298/