――報告負担を66%削減へ、CSRDの実効性と実用性を両立
2025年7月、欧州のサステナビリティ報告基準を策定する**欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)**は、欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)の大幅な簡素化に向けた修正案の作業文書を公表した。企業の報告負担軽減を目的に、開示データ項目の約66%削減を提案しており、特に必須項目(shall)については50%以上の削減を見込んでいる。
ECの要請に応じて、CSRDの「現実的な実装」を模索
この修正案は、欧州委員会(EC)からの要請に基づき策定されたもの。企業サステナビリティ報告指令(CSRD)の根幹である情報の透明性や信頼性を維持しつつ、企業にとって過度な報告義務を避けるという現実的な対応が狙いである。
EFRAGは、7月末から約60日間にわたってパブリックコメント(意見公募)を実施し、2025年11月末までに最終的な技術的助言を欧州委員会へ提出する計画を明らかにしている。
修正案の4つの柱
1. データ項目の抜本的削減
企業から「過剰な情報開示負担」との声が上がっていた細かいデータ項目について、必須項目を半減、任意項目(may)は原則すべて削除する方針。これにより、全体の開示項目数はおよそ3分の1に削減される見込み。
2. ダブルマテリアリティ評価の簡素化
企業の事業活動が環境・社会へ与える影響(アウトサイド・イン)と、気候変動などが財務に与える影響(インサイド・アウト)を評価する**「ダブルマテリアリティ」の手法について、より実用的で効率的なプロセスを推奨。トップマネジメントによる戦略ベースのトップダウンアプローチ**を重視する方向へ見直す。
3. 報告構成の柔軟性と可読性向上
報告書の冒頭に**「エグゼクティブサマリー」**の導入を推奨し、詳細指標は付録扱いとするなど、柔軟かつ読みやすい構成を提案。これにより、読者の理解を助けるとともに、企業ごとの報告の実情にも配慮する。
4. グローバル基準との整合性強化
ISSBのIFRS S2など国際的な基準との相互運用性を高めるべく、GHG排出量の算定範囲を連結財務諸表に揃えるなど、定義や文言の調整を実施。これにより、多国籍企業の報告業務の一元化が期待される。
今後の見通し
EFRAGは、今回の修正案は**あくまで「議論のたたき台」**であり、今後のパブリックコメントや内部議論を踏まえて、最終的な提案書を取りまとめる方針である。
今回の見直しは、報告制度の実効性を高めつつ、企業の負担と報告品質のバランスを図る重要な一歩といえる。欧州企業のみならず、EU域内で事業を展開するグローバル企業にとっても、今後のESRS改訂動向は注視すべき重要テーマとなる。