「グリーン・リカバリー」という考え方

2020年9月30日、国連で「生物多様性サミット」がオンラインで開催された。森林減少や種の絶滅といった生物多様性の損失を防ぐための世界各国の首脳級による会合である。この会合で国連のグテレス事務総長は、「新型コロナウイルスなど動物由来の感染症が広がるのは、人間が自然を損ない生態系との間のバランスを崩したからだ」と指摘。


また「今後、新型コロナの問題が収束したとしても、現在の経済のあり方に根本的な問題があるため、次々と新しい感染症が生じる可能性は高い」と感染症の専門家も指摘している。


国連環境計画(UNEP)は、パリ協定[1]の目標達成には毎年7.6%のCO2排出削減が必要としているが、2020年のCO2排出量は、新型コロナウイルスの感染拡大により世界中でロックダウンなどの措置がとられたため、前年比で8%(約26億トン)減少すると予想されている。しかし、この数値は新型コロナウイルスによる経済的制限によるものであることからも、年7.6%の削減を実現するには、根本的な変革がなければ容易でないことがわかる。


そのようななか、SDGs(持続可能な開発目標)やパリ協定の達成に向けて、「グリーン・リカバリー(緑の回復)」という動きが欧州を中心に広まっている。「グリーン・リカバリー」とは新型コロナウイルスからの経済復興にあたり、この機会をきっかけに脱炭素に向けた気候変動対策をさらに推し進め、生態系や生物多様性の保全を通じて災害や感染症などに対してもより回復力のある社会・経済モデルへと移行していく考え方のことである。


京都大学名誉教授の松下和夫氏は、「気候変動による被害はコロナ危機の被害より甚大でまた長期に及ぶと予測しており、新型コロナによる危機から学び、気候変動による被害を防ぐため、脱炭素で自然災害などに対して回復力や抵抗力のある社会への早期移行が必要」と提言している。


日本でも、2020年8月、東京の真夏日が観測史上最多を記録するなど、気候変動の顕在化が実感され始めており、グリーン・リカバリーへの取り組みは重要な課題と言えるだろう。
また日本は、世界のCO2排出量ランキング(2019)では第5位となっており、その点からも日本の果たす役割は大きいと言える。


より良い方向への転換。本来人間には、そのような力が備わっているはずだ。「グリーン・リカバリー」の考え方が日本でも定着し浸透すると期待も膨らむ。


[1]2015年12月、第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)において、2020年以降の温室効果ガス排出削減等のための新たな国際枠組みとしてパリ協定が採択された

この記事は帝国データバンク様の記事を転載したものです。
「グリーン・リカバリー」という考え方

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帝国データバンク

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株式会社帝国データバンク(ていこくデータバンク、英: Teikoku Databank, Ltd.、略称: TDB)は、企業を専門対象とする日本国内最大手の信用調査会社である。1900年3月3日に後藤武夫が帝国興信社として創業、その後法人化し商号を帝国興信所とした。1981年に社名を現在の帝国データバンクに変更。それと同時に従来請け負ってきた結婚調査・雇用調査等の個人調査を廃し、業務を企業信用調査に特化した。本社は東京都港区。