本コラムは
- 企業の情報公開を進めたいが、何から手を付けたら良いかわからない
- 自社で企業の情報公開をしているが、公開内容が適切かどうか判断がつかず、確認指標になるような情報を知りたい
という方向けの記事となっています。
ESG情報開示が求められるようになった背景
2020年1月、アメリカの大手機関投資家ブラックロックが、ESG投資の採用を表明したことにより、これまで欧州の投資家が先導してきたESG投資が、世界的な投資手法として広がっていく状況となっております。
日本では、2017年にGPIFがESG投資を開始したことに伴い、先行する企業においてGPIFの投資対象となるよう、ESGを経営課題とし、それに伴いESG情報開示にも積極的に取組むところが出てきました。
さらに、2022年4月から、東京証券取引所は新市場区分を導入する予定であり、その中でもプライム市場は、「より高いガバナンス水準を備え、投資家との建設的な対話を中心に据えて持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向け」市場と定義されおります。コーポレートガバナンス・コードには、ESGに関する適切な対応と情報開示に主体的に取組むことが記載されておりますので、プライム市場上場を目指す企業は、ESG情報開示を行うことが不可欠になると見込まれております。
一方で、ESG情報開示に取組むにしても、ESG情報開示枠組みには多様な枠組みがあること、また、ESG情報開示方法の標準が確立されていないことが、情報開示担当者にとっても、ステークホルダーにとっても混乱の元になっているようです。
本コラムでは、これまでESG情報開示を行ってこなかった企業の情報開示責任者、担当者の方向けに、ESG情報開示枠組みとして代表的なIIRCフレームワーク、GRIスタンダード、SASBスタンダードについて、その特徴を整理し、導入の方向性をお伝えいたします。
ESG情報開示枠組みの概要
日本取引所グループが、ホームページで紹介しているESG情報開示枠組みの中で、グローバルな枠組み、かつESGの3項目全てについて開示を求めている枠組みは下記の通りです。
これらの枠組みを理解する上では、個別の開示項目を理解する前に、上記の表1に示した「特徴」を理解し、全体像を把握することが不可欠です。
1つ目の特徴は、ルールの性質です。枠組みの名称通り、IIRC報告フレームワークが原則主義であるのに対して、GRIスタンダード、SASBスタンダードは細則主義となっております。レポートの対象に関しては、IIRC報告フレームワーク及びSASBスタンダードが、投資家及び債権者であるのに対して、GRIスタンダードはステークホルダー全般となっております。レポートの開示対象は、ESGの情報開示方針を策定する際に、重要な検討対象となるものと思われます。
報告する事項は、IIRC報告フレームワーク及びSASBスタンダードが企業価値にインパクト与える事項であるのに対して、GRIスタンダードは、経済、環境、社会に与える事項となっております。報告する事項もESGの情報開示方針を策定する際に、重要な検討対象となるものと思われます。
開示する重要事項の特定に関しては、IIRC報告フレームワーク及びGRIスタンダードが企業が行うのに対して、SASBスタンダードは、業種・産業ごとに開示すべき重要事項が定められており、後発で公表されたSASBスタンダードの大きな特徴とも言えます。
ESG情報開示枠組みを、報告する事項で分類すると下記の図1のように分類されます。
現時点では、ESG情報開示の多くが企業の裁量に任されています。そういった、企業のESGの情報開示方針を定め、その方針に従い、各枠組みを取捨選択して開示することが、開示に伴う効率を高めると同時に、ステークホルダーの満足度を高めることにつながります。
ESG情報開示枠組み統合の動き
冒頭で、ESG情報開示枠組みが多様なこと、標準的手法が確立されていないことが関係者に混乱を与えていることを述べましたが、こういった問題を解決しようと、枠組みを公表している団体が動き始めております。
ESG情報開示枠組みを提供しているIIRC、GRI、SASB、CDP、CDSBの5団体は、2020年9月に「包括的企業報告に向けて協働するための報告書」を公表しました。
その報告書の中で、ESG情報開示枠組みは、現時点では信用格付け(S&P、Moody’s等)や会計基準(IASB、FASB)に比べて標準化されておらず関係者を混乱させているので、信用格付けや会計基準と同様の水準に高めるために、包括的企業報告を上記5団体が協働して策定していることが述べられています。
そして、報告書の中には、標準的な包括的企業報告の一案として、下図(図2)のように示されております。
【出所】”Statement of Intent to Work Together Towards Comprehensive Corporate Reporting”から抜粋
この図によると、SASBスタンダードに基づく非財務情報を、財務情報と合わせて統合報告書へ掲載することを企図しております。
一方、GRIスタンダードに基づく非財務情報は、サステナビリティ報告書へ掲載することを企図しております。
上記枠組みが、一つの枠組みとして示された場合には、企業及びステークホルダーの混乱も相当に収まることが見込まれますが、そういった枠組みが公表されるまでには、図2の包括的企業報告案を参考に自社のESG情報開示方針を定め、開示していくことが一案として考えられます。
なお、SASBスタンダードを採用している実際の開示事例を見てみますと、東京電力は、統合報告書(2019年)で、財務情報と合わせて、GRIスタンダード、SASBスタンダードに基づく非財務情報を開示しております(図2の情報を全て統合報告書で報告)。
ニーズが高まるこの機会にESG情報開示に取り組んでみませんか?
日本企業は、ESG(サステナビリティ活動)経営に既に取組んではいるものの、ESG情報開示に積極的ではないため、ESG評価機関は、日本企業のESGに関する評価を低くせざるを得ないとの指摘があります。折角コストをかけて取組んでいることが、中途半端な成果となっているとすれば、勿体無いことです。
繰り返しになりますが、2022年4月の東京証券取引所の新市場区分の導入により、プライム市場への上場を目指す企業には、ESGに関する適切な対応と情報開示に主体的に取組むことが不可欠となることが見込まれております。
現在は、日本企業が、ESG経営及びESG情報開示に対して、経営課題として積極的に取り組まざるを得ない転換点にあるといっても過言では無いと思われますので、この機会にESG経営及びESG情報開示に積極的に取り組まれることを推奨致します。
企業の情報公開にお困りでしたらコトラにご相談ください
このようにESG情報開示では、多様な情報開示枠組みの中から自社の開示方針に合った枠組みを選定することにより有益な情報開示を行うことが可能です。
弊社では、企業の情報開示に関する総合的なコンサルティングサービスをご用意しております。法令等の要求への対応のみならず、企業様の戦略的な情報開示のサポートも承りますので、ご相談等ございましたら是非お気軽にお問い合わせ下さい。
ESG情報開示が求められるようになった背景
2020年1月、アメリカの大手機関投資家ブラックロックが、ESG投資の採用を表明したことにより、これまで欧州の投資家が先導してきたESG投資が、世界的な投資手法として広がっていく状況となっております。
日本では、2017年にGPIFがESG投資を開始したことに伴い、先行する企業においてGPIFの投資対象となるよう、ESGを経営課題とし、それに伴いESG情報開示にも積極的に取組むところが出てきました。
さらに、2022年4月から、東京証券取引所は新市場区分を導入する予定であり、その中でもプライム市場は、「より高いガバナンス水準を備え、投資家との建設的な対話を中心に据えて持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向け」市場と定義されおります。コーポレートガバナンス・コードには、ESGに関する適切な対応と情報開示に主体的に取組むことが記載されておりますので、プライム市場上場を目指す企業は、ESG情報開示を行うことが不可欠になると見込まれております。
一方で、ESG情報開示に取組むにしても、ESG情報開示枠組みには多様な枠組みがあること、また、ESG情報開示方法の標準が確立されていないことが、情報開示担当者にとっても、ステークホルダーにとっても混乱の元になっているようです。
本コラムでは、これまでESG情報開示を行ってこなかった企業の情報開示責任者、担当者の方向けに、ESG情報開示枠組みとして代表的なIIRCフレームワーク、GRIスタンダード、SASBスタンダードについて、その特徴を整理し、導入の方向性をお伝えいたします。
ESG情報開示枠組みの概要
日本取引所グループが、ホームページで紹介しているESG情報開示枠組みの中で、グローバルな枠組み、かつESGの3項目全てについて開示を求めている枠組みは下記の通りです。
これらの枠組みを理解する上では、個別の開示項目を理解する前に、上記の表1に示した「特徴」を理解し、全体像を把握することが不可欠です。
1つ目の特徴は、ルールの性質です。枠組みの名称通り、IIRC報告フレームワークが原則主義であるのに対して、GRIスタンダード、SASBスタンダードは細則主義となっております。レポートの対象に関しては、IIRC報告フレームワーク及びSASBスタンダードが、投資家及び債権者であるのに対して、GRIスタンダードはステークホルダー全般となっております。レポートの開示対象は、ESGの情報開示方針を策定する際に、重要な検討対象となるものと思われます。
報告する事項は、IIRC報告フレームワーク及びSASBスタンダードが企業価値にインパクト与える事項であるのに対して、GRIスタンダードは、経済、環境、社会に与える事項となっております。報告する事項もESGの情報開示方針を策定する際に、重要な検討対象となるものと思われます。
開示する重要事項の特定に関しては、IIRC報告フレームワーク及びGRIスタンダードが企業が行うのに対して、SASBスタンダードは、業種・産業ごとに開示すべき重要事項が定められており、後発で公表されたSASBスタンダードの大きな特徴とも言えます。
ESG情報開示枠組みを、報告する事項で分類すると下記の図1のように分類されます。
現時点では、ESG情報開示の多くが企業の裁量に任されています。そういった、企業のESGの情報開示方針を定め、その方針に従い、各枠組みを取捨選択して開示することが、開示に伴う効率を高めると同時に、ステークホルダーの満足度を高めることにつながります。
ESG情報開示枠組み統合の動き
冒頭で、ESG情報開示枠組みが多様なこと、標準的手法が確立されていないことが関係者に混乱を与えていることを述べましたが、こういった問題を解決しようと、枠組みを公表している団体が動き始めております。
ESG情報開示枠組みを提供しているIIRC、GRI、SASB、CDP、CDSBの5団体は、2020年9月に「包括的企業報告に向けて協働するための報告書」を公表しました。
その報告書の中で、ESG情報開示枠組みは、現時点では信用格付け(S&P、Moody’s等)や会計基準(IASB、FASB)に比べて標準化されておらず関係者を混乱させているので、信用格付けや会計基準と同様の水準に高めるために、包括的企業報告を上記5団体が協働して策定していることが述べられています。
そして、報告書の中には、標準的な包括的企業報告の一案として、下図(図2)のように示されております。
【出所】”Statement of Intent to Work Together Towards Comprehensive Corporate Reporting”から抜粋
この図によると、SASBスタンダードに基づく非財務情報を、財務情報と合わせて統合報告書へ掲載することを企図しております。
一方、GRIスタンダードに基づく非財務情報は、サステナビリティ報告書へ掲載することを企図しております。
上記枠組みが、一つの枠組みとして示された場合には、企業及びステークホルダーの混乱も相当に収まることが見込まれますが、そういった枠組みが公表されるまでには、図2の包括的企業報告案を参考に自社のESG情報開示方針を定め、開示していくことが一案として考えられます。
なお、SASBスタンダードを採用している実際の開示事例を見てみますと、東京電力は、統合報告書(2019年)で、財務情報と合わせて、GRIスタンダード、SASBスタンダードに基づく非財務情報を開示しております(図2の情報を全て統合報告書で報告)。
ニーズが高まるこの機会にESG情報開示に取り組んでみませんか?
日本企業は、ESG(サステナビリティ活動)経営に既に取組んではいるものの、ESG情報開示に積極的ではないため、ESG評価機関は、日本企業のESGに関する評価を低くせざるを得ないとの指摘があります。折角コストをかけて取組んでいることが、中途半端な成果となっているとすれば、勿体無いことです。
繰り返しになりますが、2022年4月の東京証券取引所の新市場区分の導入により、プライム市場への上場を目指す企業には、ESGに関する適切な対応と情報開示に主体的に取組むことが不可欠となることが見込まれております。
現在は、日本企業が、ESG経営及びESG情報開示に対して、経営課題として積極的に取り組まざるを得ない転換点にあるといっても過言では無いと思われますので、この機会にESG経営及びESG情報開示に積極的に取り組まれることを推奨致します。
企業の情報公開にお困りでしたらコトラにご相談ください
このようにESG情報開示では、多様な情報開示枠組みの中から自社の開示方針に合った枠組みを選定することにより有益な情報開示を行うことが可能です。
弊社では、企業の情報開示に関する総合的なコンサルティングサービスをご用意しております。法令等の要求への対応のみならず、企業様の戦略的な情報開示のサポートも承りますので、ご相談等ございましたら是非お気軽にお問い合わせ下さい。
本記事は、弊社サービスコトラコンサル掲載記事を転載したものです。
ESG情報開示に対応するために知っておきたい、ESG情報開示の枠組み