~企業価値向上に向け、社員と株主の視点を一致させる新たな試み~
背景:企業価値と資本コストの関係
- アシックスは2025年、株価の大きな変動(高いリスクプレミアム)によって企業価値が押し下げられていることに課題を感じていた。
- 資本コスト(主に株主資本コスト)が高いことが、理論株価や企業価値の低下につながっていた。
- これに対して、経営陣は企業価値の源泉である資本コストと企業収益の両面からアプローチすることを決意。
新制度:資本コストと連動した賞与「グローバル・プロフィットシェア」
- アシックスは2025年度より、資本コストを考慮した利益の一部を社員に賞与として還元する新制度を導入。
- 2024年度は、純利益(673億円)から資本コスト(株主資本1776億円×10%=177億円)を差し引いた「超過利益」約500億円の10%を原資として賞与に充て、社員1人あたり50万3620円を支給。
- この仕組みにより、社員の意識を**「利益創出」から「資本効率の改善」へと高める**狙いがある。
株価変動リスクと資本コスト
- アシックスは株価変動の大きい企業と見なされており、2024年3月時点のベータ値は1.78(102社中最下位)。
- これは、市場平均(ベータ=1)に対して約1.8倍の株価変動があることを意味し、投資家からはリスクが高い企業=高い資本コストが求められる企業と評価されている。
- 要因の一つは、保守的な業績予想により、頻繁な上方修正が行われていたこと。これが「経営の見通しが甘い」と受け取られていた。
資本コスト低減に向けた施策
- 2024年11月に中期経営計画を上方修正し、営業利益目標を従来の2倍超の1300億円に設定。
- あわせて、企業価値の源泉となる利益創出能力の向上に向け、社員の士気を高めるプロフィットシェア制度を活用。
- **資本コスト低下に直結する「投資家からの信頼向上」**を目指し、IR活動も強化。
- 約2000億円分の政策保有株を売却し、新たな長期投資家へのアプローチを加速。
- 全国8都市でのIR説明会を実施し、個人投資家1万5000人超を獲得。
成果と展望
- 個人投資家比率は8.9%→15%を目標に掲げて増加中。
- 機関投資家と個人投資家の保有バランスを取ることで、株価の変動抑制を図り資本コストを低減。
- 今後は、資本コストの存在を社員全員が意識することで、企業価値向上に向けた全社一体の取り組みが期待される。
コメント(考察的まとめ)
アシックスの試みは、PBR改善や資本コスト意識の高まりが求められる東証市場改革の流れにも沿うものであり、ESG経営における「G(ガバナンス)」の深化とも言える。従来、株主向けの概念だった資本コストを社員報酬に結びつけた点で、企業経営と資本市場をつなぐユニークな制度設計であり、他企業のモデルケースにもなり得る。
引用元記事:https://project.nikkeibp.co.jp/ESG/atcl/column/00005/051300514/