「サステナブル」(直訳:持続可能)という言葉を目にする機会が増えた。
昨今取り組みが急増しているSDGs(持続可能な開発目標)は地球環境を破壊せずに誰一人取り残さず未来まで生活をし続けていける社会、いわゆる「サステナブルな社会」を実現させるためのツールである。
サステナブルな社会以外にも、環境負荷を減らしながら食品を生産、加工、流通する「サステナブルフード」など、あらゆる分野において持続可能性を追求する動きが広まっている。
旅行分野も例外ではない。旅行先の環境、社会文化、経済への影響に十分配慮した観光である「サステナブルツーリズム」(持続可能な観光)が近年注目されている。サステナブルツーリズムの例として、地域の伝統文化の維持・向上につながる伝統文化体験や地域の雇用につながる体験ツアー、地域の環境保護を誓った旅行者のみ入国が許される仕組みなどがあげられる。
そこで、日本におけるサステナブルツーリズムの動きはどの程度あるのだろうか?
国際的な市場調査会社ユーロモニターインターナショナルが2021年3月に発表した「持続可能な観光を推進する国」ランキング[1]で、日本は世界99カ国中53位にとどまっている。とりわけアジア各国のランキングが低く、アジア・太平洋地域のなかではラオス(51位)に続き、日本は2位であったが、G7のなかでは最下位である。他方、1位はスウェーデンで、フィンランドやオーストラリアが続き、欧州の国が上位を占めた。同社によると、特に北欧諸国の旅行業者の65%は既にサステナビリティ戦略を実行しており、世界全体(50%)を大きく上回っている。
同調査は、「環境の持続可能性」「社会の持続可能性」「経済の持続可能性」など7項目を測定して評価を行っている。日本は2020年において、緊急事態宣言が解除された後、国内旅行者による宿泊施設などへの支出の増加が寄与し、「経済の持続可能性」は99カ国中20位となり、同項目において世界で最も評価を上げた国とされた。他方、「環境の持続可能性」の順位は65位にとどまっている。実際、ブッキング・ドットコムが実施した2019年の「サステイナブル・トラベル」に関する調査[2]結果によると、「よりサステナブルな旅行を行う方法がわからない」と回答した世界の旅行者の割合は37%であるのに対し、日本人旅行者における割合は49%と比較的高い。ほかにも「宿がエコに配慮していることを知った場合、その宿を予約する可能性は高くなるだろう」と答えた旅行者は、日本人でみると全体の36%だった一方、世界全体でみるとその割合が70%にのぼるなど、日本における環境の持続可能性などサステナブルツーリズムに対する意識や知識は世界全体と比べて低い傾向にあることが読み取れる。
新型コロナウイルスの感染拡大により、これまで以上にサステナブルへの意識が世界中で高まっている。感染が収束した後の国内・訪日旅行の回復に向けて、このような世界的な旅行トレンドに対応する旅行業者の取り組みだけでなく、政府など行政機関による情報の提供や制度の実施の必要性が増すであろう。
[1] Euromonitor International, Top Countries for Sustainable Tourism, March 2021
[2] ブッキング・ドットコム、「ブッキング・ドットコムが2019年の「サステイナブル・トラベル」に関する調査結果を発表 ~日本人のエコに対する知識不足が世界との差を拡大させる要因に~」(2019年4月)
この記事は帝国データバンク様の記事を転載したものです。
「持続可能な観光」日本をはじめアジア諸国は遅れ目立つ