新型コロナウイルスの感染拡大でサプライチェーンの脆弱性が顕在化し、世界各地で生産拠点の「国内回帰」や「脱中国」の動きが強まった。
フランス政府は5月26日に自動車産業に対し、約80億ユーロ(約9,500億円)の経済支援を行うと表明した。支援の条件として生産拠点を国内に戻すことなどを求めている。韓国政府は6月1日に、生産拠点を国内に回帰させる企業への税制支援の認定条件を大幅に緩和すると発表した。また、米国では国内企業の「脱中国」を促す税制優遇措置や補助金制度を含めた法案の準備が進められている。さらに、トランプ米大統領は海外で生産活動を行う米国企業に対し、新たに課税をする可能性があるとまで述べた。
日本においてもサプライチェーン対策が既に実施されている。
政府は2020年度第1次補正予算に国内回帰、ASEANなど第3国への生産拠点の多元化を促す補助金として2,435億円を盛り込んだ。その第1弾として国内回帰する57件(約574億円)の事業が採択されたことが7月17日に明らかになった[1]。採択事業57件のうち、医薬品、検査キット、医療用マスク・防護服など医療関連製品製造事業は計27件と半数近くを占めた。これら事業の生産拠点の国内回帰によって、今回の新型コロナウイルスによる混乱でみられたグローバルロジスティックが機能しなくなってしまうような非常時においても、国民が健康な生活を営む上で重要な製品が円滑に供給されることが期待できる。
また、自動車用部品や自動車用金型など、生産拠点の集中度が高い製品・部素材製造を行う事業も今回の支援先となった。このような事業の国内回帰の動きにより、海外の生産ラインがストップしてしまう場合でもサプライチェーンが寸断されずに済むのだ。
さらに、JETRO海外サプライチェーン多元化等支援事業では、ASEANなど第3国に生産拠点の多元化を図る30件の事業への支援も決定された[2]。そのうち中国からの移転先をベトナムとした事業は15件と最多。次いで、タイ(6件)、マレーシア(4件)、フィリピン(3件)が続いた。医療関連製品製造のほかに、自動車部品や半導体製造を行う事業が採択された。
このように、度々注目されてきた日本企業の「国内回帰」だが、その動きは今回のパンデミックによって加速しそうだ。そうはいっても、今回の補助金の申請数は90件と約11,000社の製造業の現地法人数(2018年度末時点)[3]のうちの約0.8%にとどまり、多くはないように感じる。その背景として、日本の比較的高い人件費・地価などのコスト面や人手不足などといった懸念材料により、多くの企業で国内回帰に対して慎重な姿勢を崩せないでいるとも考えられる。
サプライチェーンの脆弱性の顕在化リスクが高まっているいま、政府や行政の多角的な支援がますます求められている。
[1]経済産業省ニュースリリース「サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金の先行審査分採択事業が決定されました」(2020年7月17日)https://www.meti.go.jp/press/2020/07/20200717005/20200717005.html
[2]経済産業省ニュースリリース「海外サプライチェーン多元化等支援事業の一次公募採択事業が決定されました」(2020年7月17日)https://www.meti.go.jp/press/2020/07/20200717007/20200717007.html
[3] 経済産業省「第49回海外事業活動基本調査」https://www.meti.go.jp/press/2020/05/20200527002/20200527002-1.pdf
お役立ち動画 「女性活躍推進」は厳しい局面を迎えている。女性活躍はアベノミクスの成長戦略として掲げられており、2020年度までに”指導的地位に女性が占める割合”を30%にするという目標 が設定されていたが、今年度中に実現することは難しい状況となっている。
その要因はさまざまな議論がなされているが、ここでは男性の働き方に関して、男性の家事・育児への意識に着目したい。雇用均等基本調査(厚生労働省)によると、2019年度に育児休業を取得した男性の割合は7.48%にとどまった。2018年度の6.16%よりわずかながら上昇したものの、政府が「仕事と生活の調和推進のための行動指針」で策定した、2020年までに男性の育休取得率を13%に引き上げる目標には、女性管理職割合の目標とともに届いていない。
こうした進捗度合いをみて、男性の育休義務化など制度面の拡充を求める声があるが、もう一つ気になるデータがある。2016年の社会生活基本調査によると、6歳未満の子どもを持つ夫婦の家事・育児に関連する時間は、妻が3時間45分に対して夫が49分と大きな差が開いている。さらに諸外国と比較すると、日本における夫の家事・育児に費やす時間は短時間にとどまっている。これは、男性の育児に対する制度だけではなく、男性も家事・育児を行うという考え方や意識が醸成されていないことを示唆しているのではないだろうか。仮に制度が整ったとしても、男性がそれを利用しなければ絵に描いた餅である。そこで、「イクメンマインド」を普及させることが大前提として必要となってくる。
実際に、そのために動いている団体もある。2010年6月に発足したイクメンプロジェクト は、社会全体で男性がもっと積極的に育児に関わることができる機運を高めることを目的に活動し、男性の育休に関する啓発や企業の取り組み事例を紹介している。こうした取り組みが少しずつだとしても、男性の意識を変える一つのきっかけとなることを期待したい。
また、新型コロナウイルスの感染拡大が契機となり在宅勤務などのテレワークが普及したことは、夫が家にいる時間が増加することに繋がったため、男性の家事・育児参加にとっては良い機会となったといえよう。テレワークを定着させることができれば夫をイクメン化しやすくなり、妻も「それなら私も働けるかな」という意識になることができるだろう。女性活躍推進には他にもさまざまな課題があり多面的な改善が必要だが、このように「多様な働き方が多様な働き手を生む」流れを加速させることができれば、少しずつ変化が表れるはずだ。
[1]男女共同参画局「2020年30%」の目標の実現に向けて(http://www.gender.go.jp/kaigi/renkei/2020_30/index.html)
[2]イクメンプロジェクト(https://ikumen-project.mhlw.go.jp/)
お役立ち動画 2020年8月に厚生労働省が発表した人口動態統計(速報)によると、2020年1~6月の出生数は43万706人となった。過去最少を記録した2019年の同時期と比較して8,824人減少と、出生数のさらなる減少が危惧される。また、「2018年問題」といわれた18歳人口の減少も際立っており、1998年では約162万人いた18歳人口は、2018年では約118万人とこの20年間で約40万人以上減少している。
少子化の進行が顕著となるなか、各大学では近年、郊外に立地するキャンパスを都心部へ移転する動きが活発になってきている。2020年8月25日にも、立命館大学は滋賀県と京都府にあるキャンパスのうち2学部2研究科を、2024年4月に大阪いばらきキャンパスへ移転すると発表した。
大学が都心部へ移転するメリットは、一番は学生の確保と言えよう。前述したとおり18歳人口は減少しており、大学における学生獲得は重要な経営課題となっている。郊外部にあるキャンパスより交通環境が良く、様々な情報に触れられ、繁華街が多くある都心部は、大学生活を過ごすうえで、魅力的に映る。また、一部の大学ではこれまで学習環境の良い郊外キャンパスは低学年、専門性の高い都心キャンパスは高学年がそれぞれ所属していたが、キャンパス移転により学生間の接点が増加することによる教育環境の向上も期待できる。
他方、大学が移転してしまった”まち”にはどのような影響があるのだろうか。今回、立命館大学の学生約2,400人が移転することで、びわこ・くさつキャンパスがある草津市長は「多大な社会的、経済的な影響があり、受け入れがたい」と異例の声明を発表した。このことから分かるように、学生がいなくなることで地域経済に大きな影響及ぼすことが考えられる。大学近郊の飲食店やスーパーマーケットなどでは需要が減少し、アパートなどの不動産賃貸も価格低下は免れない。アルバイトなど若い働き手もいなくなるため、街の活気も減退してしまう。さらに、学生と市民との交流も減少することで、行政の政策面での転換も求められる。
地域経済への影響だけでなく、地域の魅力、人材育成、文化水準の向上を考える上でも、学生というパワーは非常に重要であり、大学が移転することは大きな衝撃となろう。
近年の大学移転は、大学の経営上、教育の質向上などを考えると避けられないのかもしれない。しかし、数千人規模の学生が一度にいなくなることは、地域経済のみならず、その地域の魅力の低下にも直結してしまう。改めて”まち”を形成する上で学生は非常に重要であると認識するとともに、仮に大学移転が生じる際は、地元行政・立地企業・住民、移転する大学を踏まえた4者で、次の”まち”のあり方を探っていくことが肝要となる。
お役立ち動画 SDGs(持続可能な開発目標)の目標達成期限である2030年まであと10年。
今般の新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の感染拡大は、SDGsの取り組みに影響を及ぼしつつある。外出自粛が大気汚染や水質の改善につながり、SDGsの「目標13:気候変動に具体的な対策を」などの達成に貢献することとなったほか、働き方の変化によるワークライフバランスの改善がみられ、SDGsの「目標8:働きがいも経済成長も」の達成への貢献となっている。一方で、新型コロナを背景に世界中で職を失う人が急増し、これが逆にSDGsの目標8の達成に支障をきたしている。さらに、国連児童基金(UNICEF)などの新しい分析結果[1]によると、新型コロナが経済に及ぼした影響により、2020年末までに貧困下の子どもが15%増加し、最大8,600万人の子どもが新たなに貧困状態に陥ることが予想されている。ほかにも、学校の休校が続いたなか、オンライン授業ができない国も多く、世界中で教育の機会が失われている。こういったSDGsの目標である貧困や教育に関する取り組みが大きく後退している。
さて、日本のSDGs達成状況はどうなっているのだろうか。
2020年SDGs達成度ランキング[2]での日本の順位は166カ国中17位と、2019年の15位から低下した。G7のなかではフランス、ドイツ、イギリスに次ぐ4位、アジアでは1位を維持しているものの、世界での順位は徐々に低下する傾向にある。
同発表によると、SDGsで掲げられている17目標のうち、日本の『最も重要な課題』は「目標5:ジェンダー平等を実現しよう」「目標13:気候変動に具体的な対策を」「目標14:海の豊かさを守ろう」「目標15:陸の豊かさも守ろう」「目標17:パートナーシップで目標を達成しよう」である。なかでも、女性国会議員や男女の賃金格差、CO2の排出量、海の健全性、絶滅危惧種の保護と絶滅防止、国際譲許的融資(International Concessional Public Finance)に関する指標が最も重要な課題とされている。
他方、帝国データバンクが2020年6月に実施した「SDGsに関する企業の意識調査」によると、企業が現在力を入れて取り組んでいるSDGsの目標に関して、「目標15:陸の豊かさも守ろう」が4.9%、「目標14:海の豊かさを守ろう」が5.0%と1桁台にとどまっており、下位3項目に入っていた。特に目標15は今後最も取り組みたい項目としての割合が最も低かった。これらを踏まえると、最も重要な課題とされているにもかかわらず国内企業の取り組む割合が低い陸域や海洋に関する目標は今の日本にとって達成することが最も難しい目標であると考えられる。
米非営利団体(NPO)によれば、今のままだとSDGs達成は2030年ではなく、2092年になる見通しであり、これを受け各国政府は危機感をつのらせているといえる。しかし、国家レベルの取り組みのみならず、企業の取り組みや個人レベルの意識変革もSDGs達成への原動力となる。企業は経営リスクを回避して「持続可能性」を追求し、個人は自分たちの子孫により良い世界を残すため、SDGsの進展に期待が高まっているこの機会に少しでも歩みを進めるべきであろう。
[1]国連児童基金(UNICEF)ニュースリリース「新型コロナウイルス貧困層の子ども8,600万人増加のおそれ」(2020年5月28日)
[2]The Sustainable Development Solutions Network (SDSN), Sustainable Development Report 2020(2020年6月発表)
お役立ち動画 日本は、水道水に恵まれた国である。水道の蛇口を捻ればそのまま水が飲めるという生活は一見当たり前のように感じてしまうが、実はこれは世界でも珍しいということをご存じだろうか。国土交通省によると、水道水をそのまま飲める国は日本を含めて世界に8カ国しかなく、そのまま飲めるが注意が必要な国も21カ国にとどまっている[1]。我々が日々使用できている水道水は、大変ありがたいものなのだ。
しかし、このきれいな水は、意外にも大きな問題に直面している。厚生労働省によると、年間2万件を超える水道管の漏水・破損事故が起こっている[2]。これは、高度経済成長期に整備された水道管の老朽化が一気に到来していることが要因である。1960年には53.4%だった水道普及率は、1965年には69.4%、1970年には80.8%となり、10年間で27.4ポイントも増加している[3]。この期間に急速に普及した水道管の更新時期が、現在になって訪れた格好だ。
さらに同資料をみると、水道管の法定耐用年数として定められた40年を超えている割合(老朽化率)は14.8%で年々上昇の一途をたどっている。一方で、水道管の更新率0.75%は、年々低下し近年は横ばいで推移しており、先に述べた事故件数も頷ける。さらに、今後20年間に更新が必要な水道管は日本全体の23%を占めている。しかし、これらを更新するには年1.14%の更新率が必要であると推計されているが、現状ではその更新率に及んでいない。加えて、全ての水道管を更新するには130年かかるとも言われている。このような背景は、水道管の老朽化問題の現状を裏付けているといえよう。
こうした現状に対して、政府は2018年に水道法を改正し、水道事業に関して官民連携を推進した。さまざまな条件はあるものの、水道施設の所有権を国や行政機関に残したまま、公共施設等運営権を民間企業に設定できる仕組みを導入するなど、民間企業も含めた水道事業の活性化を促したのである。
ただ、制度的な問題以前に大きな課題があると感じる。それは水道事業の職員数の減少だ。水道管の老朽化率は上昇し事故件数も顕著な現状があるにも関わらず、1980年には約7万6,000人とピークだった職員数は、2018年には4万5,000人を下回るなど減少するばかりだ。このように職員数の減少とともに水道管の老朽化率が上昇するなか、現状に歯止めをかけるために、相応の職員数の増加が必要となるだろう。他にもさまざまな課題があるものの、水道管の漏水・破損事故が日常でいつ起きてもおかしくない現状を前に、早急な対策が急がれる。
[1]国土交通省「令和元年度 日本の水資源の現況について」
[2]厚生労働省「水道の現状と基盤の強化について」
[3]厚生労働省「水道の基本統計」 同統計によると2018年時点で水道普及率は98.0%
お役立ち動画 2020年9月30日、国連で「生物多様性サミット」がオンラインで開催された。森林減少や種の絶滅といった生物多様性の損失を防ぐための世界各国の首脳級による会合である。この会合で国連のグテレス事務総長は、「新型コロナウイルスなど動物由来の感染症が広がるのは、人間が自然を損ない生態系との間のバランスを崩したからだ」と指摘。
また「今後、新型コロナの問題が収束したとしても、現在の経済のあり方に根本的な問題があるため、次々と新しい感染症が生じる可能性は高い」と感染症の専門家も指摘している。
国連環境計画(UNEP)は、パリ協定[1]の目標達成には毎年7.6%のCO2排出削減が必要としているが、2020年のCO2排出量は、新型コロナウイルスの感染拡大により世界中でロックダウンなどの措置がとられたため、前年比で8%(約26億トン)減少すると予想されている。しかし、この数値は新型コロナウイルスによる経済的制限によるものであることからも、年7.6%の削減を実現するには、根本的な変革がなければ容易でないことがわかる。
そのようななか、SDGs(持続可能な開発目標)やパリ協定の達成に向けて、「グリーン・リカバリー(緑の回復)」という動きが欧州を中心に広まっている。「グリーン・リカバリー」とは新型コロナウイルスからの経済復興にあたり、この機会をきっかけに脱炭素に向けた気候変動対策をさらに推し進め、生態系や生物多様性の保全を通じて災害や感染症などに対してもより回復力のある社会・経済モデルへと移行していく考え方のことである。
京都大学名誉教授の松下和夫氏は、「気候変動による被害はコロナ危機の被害より甚大でまた長期に及ぶと予測しており、新型コロナによる危機から学び、気候変動による被害を防ぐため、脱炭素で自然災害などに対して回復力や抵抗力のある社会への早期移行が必要」と提言している。
日本でも、2020年8月、東京の真夏日が観測史上最多を記録するなど、気候変動の顕在化が実感され始めており、グリーン・リカバリーへの取り組みは重要な課題と言えるだろう。 また日本は、世界のCO2排出量ランキング(2019)では第5位となっており、その点からも日本の果たす役割は大きいと言える。
より良い方向への転換。本来人間には、そのような力が備わっているはずだ。「グリーン・リカバリー」の考え方が日本でも定着し浸透すると期待も膨らむ。
[1]2015年12月、第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)において、2020年以降の温室効果ガス排出削減等のための新たな国際枠組みとしてパリ協定が採択された
お役立ち動画 2020年9月下旬、河野行政改革担当大臣は行政手続きでの押印を原則廃止するよう各省庁に要請した。同大臣は、自身のTwitterでも「銀行印が必要なものや法律で押印が定められているものなど、検討対象は若干あるが、大半は廃止が可能」との見方を明らかにしており、行政手続きの「脱ハンコ」を推進しようとしている。
行政に変化が生じれば、当然民間企業も変化を迫られる。以前、当コラム「デジタル化に潜む落とし穴 」でも述べたが、デジタル化の推進を行う企業であっても、社内稟議が押印というアナログな社内プロセスはいまだ多い。また、新型コロナウイルスの影響からテレワークが推奨されている現在、書類への押印のため出社を余儀なくされるビジネスパーソンもいる。こういった状況の改善もみえてくるのではないだろうか。
他方で、帝国データバンクが公表した「新型コロナウイルス感染症に対する企業の意識調査(2020年8月)」では、新型コロナウイルスを契機として、デジタル施策を取り組んでいる企業は75.5%となった。そのうち、具体的な取り組み施策は、オンライン会議設備やリモート設備の導入が半数以上の企業で取り組んでいるなか、「電子承認(電子印鑑)の導入」は15.3%であった。徐々にではあるが、押印からの脱却に兆しがみえつつある。
私自身、今後、必要な押印と不必要な押印が明確になり「脱ハンコ」が推進されることに期待している。押印による時間のロスなどがなくなり、手続きが簡略化されれば、業務スピードは向上するであろう。
一方で、一世一代の出来事には、押印は文化として残してほしいとも思う。婚姻届などの人生の節目の出来事に対しては必要となろう。また、実印を押す際の緊張感など一度は経験したほうが良いのかもしれない。
全日本印章業協会によると、日本で今日のような実印や認印が広く普及するようになったのは、明治初期とのこと。明治新政府が法的に実印の重要性を確立させたことにより、約150年にわたる社会的慣習が続いている。現在、さまざまな議論を呼んでいる「脱ハンコ」、賛否はあろうが、新たなハンコ文化の行く末を注視したい。
お役立ち動画 「3K」と聞けば、どのような意味を想像するだろうか。あらゆる場面で通称や略称として使われており、想像するものは人によってさまざまだろう。ここでは、人材の育成や定着を目指す意味で使われている「3K」をご紹介したい。
ここで言う「3K」とは、3項目の頭文字の総称を指す。それぞれの正体を明かすと、 【 期待する → 機会を与える → 鍛える 】というサイクルのことである。
そう聞けば、おおよそは納得するだろう。もう既に実践しているという声もありそうだ。部下がスキルを磨いていく以外に、精神面を充実させる意味においても、この「3K」が大切になる。一見、至極当然のように感じるかもしれないが、上司に求められるこのサイクルは意外に抜け落ちてしまっていることもありうる。怖いのは、抜け落ちてもなかなか気づくことができないことだ。精神的な充実は数値などでは測れず、気づかぬうちに部下は意欲を失い、成績の低下や職場環境の悪化、さらには退職を招きかねない。
その怖さはさまざまな角度から表現できるが、その一つ「アンコンシャス・バイアス」は、「3K」に大きく関わる。アンコンシャス・バイアスとは、「無意識の偏見」と訳される。事例として最も多く取り上げられるのは、女性社員への接し方だろう。上司の自覚がない部分で女性に対して固定観念を持ち、「いつかライフイベントで退職してしまうから」と考え「3K」の一つ目である【期待する】から遠ざかり、「女性は家庭を優先するから、大事な仕事は任さないでおこう」と考え【機会を与える】が失われていく。そして、【鍛える】だけが独り歩きしてしまい、部下にとってはただ厳しい環境となり、仕事にやりがいや面白さを持たなくなってしまう。また、例にあげた女性に対するアンコンシャス・バイアスは、女性活躍推進の阻害要因であり、一種のステレオタイプ脅威だと指摘する意見もある。
「3K」のなかで特に重要となるものは、部下への【期待する】である。本コラムでは女性へのアンコンシャス・バイアスを一例としてあげたが、性別や年齢を問わず、すべての部下に対して当てはまる。例えば盲点となるのは、勤務歴が比較的長い社員。自社の戦力として育って以降、【鍛える】一辺倒になってはいないだろうか。もちろん年齢を重ね経験を積むにつれて責任も厳しさも増すが、そのようななかでも部下が働きがいを持てるように上司が意識をすることが肝要だろう。何より、部下への気遣いや声掛けなど、普段の何気ない行動こそ、精神的充実の礎だ。人材の育成や定着には、日ごろの些細な行動から始まる。
お役立ち動画 2015〜2019年における世界の平均気温は1850年に観測を始めて以来どの5年間よりも気温が高く[1]、オーストラリアで大規模な森林火災が発生するなど、気象変動の深刻化が進んでいる。
このような状況下、地球温暖化対策の国際的な枠組みである「パリ協定」が2020年から本格的な運用段階に入った。また、SDGs(持続可能な開発目標)にも「気候変動に具体的な対策を」といった目標が制定されており、世界で気象変動への対策が加速している。
各国が実施している対策として、石油や石炭などといった化石燃料の代わりに再生可能エネルギーや原子力など、CO2排出量の少ないエネルギーの導入強化が挙げられている。なかでも、自動車業界を驚かせているのは、各国・地域におけるガソリン車・ディーゼル車の販売禁止の動きだ。フランス政府は2040年にすべてのガソリン車・ディーゼル車の新車販売を禁止すると発表し、世界最大の自動車市場である中国は2035年を目処に新車で販売するすべての車をEV(電気自動車)などのNEV(新エネルギー車)やガソリンと電気を併用するHV(ハイブリッド車)にする方針を示している。特に英国政府は、ガソリン車・ディーゼル車の新車販売を2030年までに禁止とするうえに、ハイブリッド車に関しても排出ゼロの規制をクリアしたもの以外は35年までに販売を禁止すると表明した。このような動きは電気自動車の普及を後押しすることになる。日本の乗用車は、国内生産だけで考えても、2019年においては半数超が輸出向けであり[2]、海外市場が非常に重要であるといえる。ガソリン車とハイブリッド車が主流である日本は、海外市場も含め自動車業界の変化にあらゆる対応が必要となってくるだろう。
他方、SDGsの17目標のうち、気象変動に関する目標が最も重要な課題である日本には、国際社会からその対応への期待が高まっている。そのようななか、日本政府はガソリン車などの販売禁止の意向を示してはいないが、菅総理大臣は2020年10月26日の臨時国会の所信表明で、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする、『2050年カーボンニュートラル』を目指すと宣言し、気象変動に関する動きが加速しそうだ。
近年、船舶分野や航空分野でも電動化の研究開発が促進されており、気象危機時代を生きるためにあらゆる業界に革新が起きている。幅広い事業が変化に上手く対応できるために、政府は『2050年カーボンニュートラル』を実現するための具体策を表明することが求められよう。さらに、それを支える政府の民間企業および消費者に向けたさまざまな支援策にも注目したい。
[1] WMO(世界気象機関)https://library.wmo.int/doc_num.php?explnum_id=9936
[2] 日本自動車工業会 四輪車輸出台数および四輪車生産台数http://www.jama.or.jp/industry/four_wheeled/index.html
お役立ち動画 今だかつてない年となった2020年も、慌ただしい師走が始まろうとしている。
日本には西暦のほかに、「昭和」や「令和」などの元号や「師走」や「睦月」などの和風月名と、年月を表現する言葉が多数ある。また、日本には「〇〇の日」という記念日もたくさん存在する。「こどもの日」や「勤労感謝の日」などのように法律で国民の祝日として定められている日もあれば、歴史的な由来やゴロを合わせて物事の推奨や普及を目的に作られた日もある。11月22日は「いい夫婦の日」として最近定着しているが、11月23日は「いいふみ(文)の日」、11月26日は「いい風呂の日」など、調べてみると11月は「いい」を付けた記念日がたくさん並んでいた。
世界でも国際デーと呼ばれる記念日が多数ある。国際機関によって定められ、特定の事項に対して特に重点的問題解決を全世界の団体・個人に呼びかけるための日である。なかでも、私は11月20日の「世界こどもの日」に関するニュースに、毎年目が留まる。
「世界こどもの日」は1954年、世界の子どもたちの相互理解と福祉の向上を目的として、国連によって制定された。その後、1989年の11月20日には、すべての子どもの人権を保障する初めての国際条約『子どもの権利条約』が国連総会で採択され、世界中で子どもの保護への取り組みが進むこととなる。
日本ユニセフ協会が発行している「世界子供白書2019年 子どもたちの食と栄養」では、世界の5歳未満児の少なくとも3人に1人に相当する2億人が、栄養不足や過体重であると報告された。また生後6カ月から2歳までの子どものおよそ3人に2人が、この時期の子どもの身体や脳の成長に必要な食べ物を得ることができておらず、脳の発達の遅れ、学習の遅れ、免疫力の低下、感染症の増加などのリスクに晒されている。飢餓などの栄養不足と同時に、「超加工食品」を背景とした肥満などの過体重による病も問題になっているのが現実であった。
帝国データバンクの調査(「SDGs に関する企業の意識調査」)によると、SDGs(持続可能な開発目標)に掲げられている17目標のうち現在力を入れて取り組んでいる項目では、「8.働きがいも経済成長も」が 27.1%で最も高かった一方で、「1.貧困をなくそう」(5.5%)や「2.飢餓をゼロに」(3.1%)など、企業活動との結びつきが難しい項目については低位に留まっている。
世界の先進国では「5G」などの様々な技術が発展を遂げている一方で、干ばつによる飢餓や栄養不足で生命の危険にある子供たちが世界中にいることを、心に留めておきたい。食品ロス削減などは身近にできる大きな一歩ではないだろうか。
お役立ち動画 新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の影響で在宅勤務を取り入れる企業が一段と増加した。帝国データバンクが2020年9月に実施した調査[1]によれば、企業の33.9%が新型コロナの感染拡大を機に在宅勤務を導入しており、新型コロナの感染拡大前から導入済の企業(5.3%)を含めると、現在在宅勤務を導入している企業は39.2%と、4割近く占めている。
在宅勤務は、新型コロナなど感染症の感染拡大を防止するのみならず、労働者の通勤による疲労の軽減などさまざまな利点があげられる。しかし意外なことに、在宅勤務などテレワークにより、労働者は心身の極度の疲労によりエネルギーが奪い取られ仕事などへの意欲を失う、いわゆる「燃え尽き症候群(バーンアウト)」に陥るリスクが高まる恐れがある。
オムロンヘルスケアが1,000人の労働者を対象に実施した調査[2]によると、新型コロナ発生後のテレワークで31%の人が肩こりや精神的なストレスなどを感じている。
また、米マイクロソフトが米国や日本など8カ国で勤務している約6,000人の労働者を対象に実施した調査[3]によれば、リモートワーカーを含めて労働者の30%超は新型コロナの感染拡大前よりも仕事における「燃え尽き」を感じるようになったという結果が明らかになった。国別では、日本においては約2割、米国においては約3割の人がそう感じているのである。
同調査を詳細にみると、リモートワーカーにとっての最大のストレス要因は「仕事と私生活を切り離すことが困難」であった。その結果として労働者は昼休憩や夜遅くまで仕事をするなど、長時間労働につながり、疲労が蓄積していたと考えられる。実際に、NBER(全米経済研究所)[4]が北米、ヨーロッパ、中東の16の大都市圏で勤務している約300万人の労働者のロックダウン時におけるリモート会議や電子メールのデータを分析したところ、対象者の一日の平均労働時間は新型コロナの感染拡大前の時期より48.5分増加したことが分かった。さらに一人当たりが参加する会議の数は、感染拡大前より12.9%増加したことも明らかになった。
在宅勤務で燃え尽き症候群にかからないために、我々はどうすれば良いのだろうか?よく言われているのは、仕事のスペースを生活しているところから区切ることや一日の始業と終業を明確にすることである。また、休憩時間も含め勤務時間外は仕事関係のメールや電話のやり取りをしないことも重要だと考えられる。ほかにも、我々が知らないうちに「仕事とプライベートを切り替える時間」となっている”通勤”の代わりに、ちょっとした散歩に出かけて気持ちを入れ替えることもなかなか良い策かもしれない。
[1] 帝国データバンク 『新型コロナウイルス感染症に対する企業の意識調査(2020年9月)』
[2] オムロンヘルスケア 『【テレワークとなった働き世代1,000人へ緊急アンケート】 新型コロナウイルスによる、働き方・暮らしの変化により 「肩こり」「精神的ストレス」などの身体的不調を実感』2020年4月
[3]Microsoft Work Trend Index report September 2020
[4] NBER 『Collaborating During Coronavirus :The Impact of COVID-19 on the Nature of Work』July 2020
お役立ち動画 帝国データバンクが1月8日に発表した「TDB景気動向調査」(2020年12月調査)では、景気DIは7カ月ぶりに減少し35.0となった。新型コロナウイルスの感染再拡大で個人消費が下押しされ、『サービス』や『小売』などの消費関連の業界を中心に持ち直しの傾向がストップした。
特に、観光施策の停止などの影響を受けた「旅館・ホテル」(11.9、前月比16.9ポイント減)は、前月からの減少幅が、2020年2月(同15.3ポイント減)および3月(同16.2ポイント減)を超え、調査開始以降最大となった。また、「飲食店」(同5.7ポイント減)も大幅な減少となり、個人消費関連の業種は再び厳しい状況となっている。1月7日に東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県の1都3県において緊急事態宣言が発出され、今後も個人消費の落ち込みが懸念される。
他方、『製造』の景気DIは前月から0.6ポイント増の33.9となった。判断の分かれ目となる50を大きく下回る水準であるものの、2020年6月以降7カ月連続の増加となり、回復傾向が続いている。
『製造』の設備稼働率DIは40.2(前月比1.0ポイント増)となり、2020年2月(42.4)以来10カ月ぶりに40台まで上昇した。生産・出荷量DI(37.8、同0.7ポイント増)も4カ月連続の増加となるなど、生産面での回復傾向がみられる。また、業種別の景気DIは自動車部品製造などが含まれる「輸送用機械・器具製造」(40.1、同3.8ポイント増)が大幅に増加。「機械製造」(33.5、同1.8ポイント増)も、半導体製造装置製造が堅調に推移している。
製造業の持ち直しが続いている要因としては、中国における製造業の回復が大きいだろう。中国国家統計局が発表した2020年12月の製造業PMI(季節調整値)は51.9となり、11月からは0.2ポイントの減少となったものの、経済全体の拡大・縮小を測る目安である50を10カ月連続で上回った。新型コロナウイルスの感染状況が落ち着きつつある中国では、経済の拡大局面が続いているとみられる。
しかし、中国を中心に製造業が回復していく一方で、今後の懸念材料も浮き彫りになってきた。鉄スクラップや鋼材など原材料価格の高騰と、海外との輸出・輸入に用いる輸送用コンテナの不足である。
鉄スクラップや鋼材などの原材料は、2020年前半、製造各社が新型コロナウイルスの影響で設備の稼働停止や、生産・在庫を減らしていたなか、中国の生産が急速に回復したことで、非常に需給がひっ迫している。関東鉄源協同組合の調査によると、2020年12月の鉄スクラップ輸出入札の平均落札価格は38,710円となり、11月から8,105円上昇した。TDB景気動向調査においても、鉄スクラップ卸売が含まれる「再生資源卸売」の販売単価DIは66.2(前月比8.5ポイント増)と高水準であり、2020年8月以降5カ月連続で増加している。原材料価格の高騰や需給のひっ迫が長引けば、日本国内の製造業への影響も避けられないだろう。
さらに、ここにきて大きな問題になってきているのが、輸送用の空コンテナの不足である。中国からの輸出急増によりアジアを中心にコンテナが不足し、輸送スケジュールが遅れてきている。また、コンテナの不足にともない、海上運賃も大きく高騰している。TDB景気動向調査に寄せられた企業の声でも、コンテナ不足による影響を受けているとする企業は、製造業、卸売業、運送業など、業界・業種問わず広がってきている。
原材料価格の高騰やコンテナの不足といった供給サイドへの制約は、回復傾向にある製造業に影を落としている。製造業の生産面や収益面への影響が、今後懸念される。
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